TENANT

ストーリー・ディストーションby.伊佐郷平

2020.03.23

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まだジャグリングの魅力に気づいていなかった8歳の頃、僕は「漫画」と出合った。

 

 

少し変わった家庭で育ったため、漫画やゲームに触れる機会があまりなく、友達同士の会話に全く参加できずに悔しい思いをしていた。
自分も欲しいと駄々をこねるたびに、大人になったら好きなだけ買えると母親に言われ、早く大人になるためにとりあえず牛乳をたくさん飲んだり、柱の傷を身長より少し上につけてサバを読んだりした。

 

ある日叔母が内緒で漫画を買ってくれた。
バレないように本棚に並べていたシリーズものの小説のカバーケースを外し、その中に隠しておいた。
親が出かけたあと足音が遠くなるのを待ち、高まる心拍数を落ち着かせながら取り出してゆっくりページをめくった。
こっそりと未知の世界を覗くあの興奮は今でもはっきりと覚えている。

 

衝撃を受けた。

 

全然読めなかった。

 

読み方がわからなくてしばらく苦戦したが、徐々に慣れていき、キャラクターの表情や吹き出しにつまったセリフを、一つ一つ噛みしめるようにして読み進めた。
気づけばページをめくる感覚がなくなるほど夢中になっていた。
何より感動したのが、未来から来たロボットが、ポケットから無限に出てくる道具を使いこなし、ありとあらゆる敵からメガネを救うストーリーのおもしろさ。
自分なら道具をどんなふうに使うか想像を膨らませながら読んだりもした。

他の作品もどうにか手に入れて読んでみたかったが、家中に張り巡らされた網の目をくぐり漫画を読むことは困難だった。
叔母からもらった漫画もあっけなく母親に見つかり没収された。

 

悔しさを抱えて眠りについたその夜、母親の悲鳴が聞こえて飛び起きた。
何か得体の知れないものが母親の布団に潜り込み、足をツンツンしたらしい。

恐る恐る布団をめくってみると、そこには両手のハサミを振りあげて威嚇しているペットのザリガニがいた。

水槽から寝室までは距離があったし、歩いた痕跡も残っていなかった。もしかするとワープしたのかもしれない。

 

僕にはザリガニが勝ち誇りダブルピースしているように見えた。

 

僕も心の中でピースをした。

 

求めているものがなかなか手に入らない環境は、それなら自分で作ってしまえばいい精神を生み、僕は次の日から狂ったようにSF漫画を描き始めた。

 

続くー

 

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