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癖からみる読書案内02「又吉によって思い出す痒み」by.松井亜衣

2020.03.23

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咳をしてもひとり

 

この言葉をご存知でしょうか。
尾崎放哉(ほうさい)の自由律句です。

 

え、ただの独り言でしょ、と言われてしまうと、ぐぅの音もでないんですがこれもれっきとした作品です。
自由律句とは、575の形式にとらわれない自由な韻律で詠む俳句。

 

咳がでた 周りにだれもいない
咳をしてもひとり

 

どうでしょうか。
リズム感、そして削ぎ落とされた少ない言葉から想起される情景…!
簡単なようで奥が深いよ自由律。

 

そして自由だからこそ、その人自身の「癖」がめちゃくちゃ出てくるでしょう。

 

そしてかの、有名人も自由律句をつくり発表しています。

 

 

せきしろ、又吉直樹著『蕎麦湯が来ない』(マガジンハウス)

 

このお二人はこれまでに、『まさかジープで来るとは』
『カキフライがないなら来なかった』の2冊の自由律句&エッセイ本を出しています。
今作が3冊目。

 

さっそくだがこの本の中からいくつか引いてみる。

 

たこ焼きが熱すぎて黙る 又吉直樹
難解なティーポットで来た 又吉直樹
文庫本で席を取られていた 又吉直樹

 

なんなんでしょうか、この残念な感じは…。

 

又吉さんの作品の癖をちょっと見ていくと、

①物事の「只中感」の「なさ」
もうひとりの自分が自分をみている目線から書いてあるような、そこにある当事者の感情は読み取れず、どこか他人事のよう。
いや、アチチってなるよね?!

 

②そして連綿と続いている日常のほんの一部分を切り取っているので、「何事感」がすごい。
句の前後は読者にゆだれられることになる。

 

③よーく思い出せば、なんだか心当たりがある感覚。
又吉さんの自由律句によって、忘れていたことを思い出し、日常で認識する場面が立ち上がる。
難解なティーポット…ティーポットっていうか、未だに紅茶を頼んだ時にこの器具が来るとびびる。

 

 

 

ひとりで来たのか、誰かと来たのか、そして難解なティーポットに対してどう対応したのか。
たぶん店員に聞くようなタイプじゃないし、ひとりで慎重に取り組んだんだろう。

 

せきしろさんの句も見てみよう。

 

MIZUNOの鞄に苗字が刺繍されている せきしろ
ベランダさんから神輿を見下ろす寝起き せきしろ
わざとだと知っているがもちろん言わない せきしろ

 

又吉さんの作品に比べると、臨場感、感情、その人の温度を感じる気がする。

 

あなたはどちらがお好きでしょうか。

 

自由律句はなんというか、脳のエクササイズ的な感じでやると面白い。正解もないし、なんかいい感じにつくれるとひとりで嬉しい。

 

わたしも又吉風にいくつか作ってみた。

出汁袋ごといってしまった
町田康が否応なしに見てくる
おまえの地団駄よ地層を心配する
寿司屋のお湯入れがこわい
なぜおばちゃんのみなのかkioskで小腹を満たす

 

松井風に作ってみた。

回転椅子にずっと座っている春
数珠をつないであかるい話
正座する速度で落下する夕方
ぺんしる、ベニヤ、木々は色々に
傘をまわしてひとりになりたがる

 

ぜひ、皆さんも作ってみてください。

作ったら、みんなで201号室句会、しましょう!

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