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癖から見る読書案内03「言葉なんかおぼえるんじゃなかった、なっ」by.松井亜衣

2020.05.20

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わたしたちに平等に与えられたものとしての「言葉」。
誰かと話すのにも、歌うのにも、詩を書くのにも言葉を使います。
みなさんは日頃、どのように言葉と付き合っているでしょうか。

 

田村隆一(語り)・長薗安浩(文)
『言葉なんかおぼえるんじゃなかった』
(筑摩書房)

 

「言葉なんか覚えるんじゃなかった」という言葉が目の前に現れたとき、みなさんはどのように受け取りますか。

 

わたしはこの本の背表紙を本屋で見かけた時、
「この言葉を見つけてしまった」という気がしました。

 

わたしは読書好き、俳句や詩などを書き、言葉に囲まれ言葉を扱っています。
もしかすると囲まれすぎているからこそ、何か響くところがあったのかもしれません。

 

では、言葉を覚えなかったらどうなっていたのか、どうしたかというところまで聞かれると、黙りこくってしまうのですが……。

 

この言葉は、本作に収録されている「帰途」という詩の中に出てきます。

 

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか

 

あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみがしずかな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ

 

あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛舌
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

 

あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

 

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる

 

ちょっとロマンチックな詩ですね。

 

この本、田村さんの詩とエッセイで構成されており、このエッセイがまた面白い。
結婚、うそ、教養、おばけ、さまざまなことについて書かれてあるのですが、文末すべて、「なっ」で終わっているのです。

 

第七話「旅」から抜粋。

人生の旅は面倒くさそうかい?
でもね、堂々と空しい期待を抱きつづけるのさ。
あなたは、人間なんだから。

旅は人間の特権なんだから、いい旅しようじゃないか。
なっ。

 

「なっ」と声をかけられた読者は、会ったこともないおっちゃんに、諭され、まぁそうだよな、と思うしかないのです。

 

そしてわたしは、「そういうおっちゃんの存在が欲しかった」と気づかされました。

 

今の若者はよ~なんて上から目線でぐじぐじいびられるわけでもなく、酒を交わしながら、なんとなくためになるような、ならないようなことを語りかけてくる雰囲気。

 

内容もさることながら、そんな大人がいる、ということ自体が希望に見えてきます。

 

これからの人生、気軽に話のできるおっちゃんを探しつつ、田村隆一の「なっ」に代わるような、わたしだけの語りかけ方を見つけていきたいものです。

 

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