

叔母からもらったド○えもんと、図書館で隠れるようにして読んだタ○タンの冒険に影響を受け、初めて描く漫画のテーマは自然とSF・冒険ものになった。
宇宙人と共に見たこともない生物たちが生息する星を飛びまわり、銀河の果てを目指して旅する冒険物語。
宇宙のロマンと未知の世界への憧れを詰め込んで、壮大な物語を作ろうとしていた。
主人公はなぜか迷うことなく自分。
一緒に旅をする宇宙人はタコ型。
といってもタコなのは体の柔らかさだけで、手足は2本ずつ、身長は110センチクライ。
クチハニジュウマルデメハテン。
生まれたのは太陽系外惑星という設定。
テーマが決まり、キャラクターはもう頭の中で動き出していたが、何から描いていいのかわからない…。
当たり前に宇宙人がいる世界を描くのが一番魅力的な気がするが、この頃のまだシワの少ない脳みそでは思いつきもしなかった。
鉛筆を持ったまま紙に書いた四角いコマをしばらく睨んでいた。
次の日学校で、同じように漫画の魅力に取り憑かれていた友達のJくんに宇宙人の絵を見せたところ、とても気に入ってくれた。
それがやけに嬉しくて、単純だった僕はJくんも漫画に登場させることにした。
Jくんを登場させることによって、悩んでいた描き始めがスムーズになる。
物語は「日常」から始まる。

…学校の帰り道、Jくんと2人で歩いていると、いつもは気にしていなかった林の中に銀色に光るものを発見する。
気になった2人は光の正体を確かめようと、茂みをかき分け林の奥へ。
木の少ない開けた場所にそれはあった。
故障したUFO、、、?
とそれをせっせと修理する未確認生命体。

言葉が普通に通じるとか、宇宙人と接触したのにリアクションの薄い2人とか、いろいろ問題はあったがそのままストーリーは続く。
住みやすい星を探す旅の途中、UFOが故障したため地球に不時着した宇宙人。
直り次第再出発すると言うのだが、どうやら一緒に旅をする仲間が必要らしい。
ストーリー上ここから旅が始まることは決まっていたが、果たして行くと決意するまでに2人はどれくらい悩んだらいいんだろうか…。
家族や友人との別れ、不安や葛藤を乗り越えて宇宙へ旅立つことを決める重要な場面。
もしかしたら行かないという決断をして、後から行かなければならない状況をつくった方がよりリアルかもしれない。
それよりも早く冒険のシーンを描きたい自分がいた。
しばらく考えたあげくストーリーをはしょった。

腕組みしながらぶつぶつ言う、顔を見合わせる、決意する。
わずか3コマで終わらせた。

朝起きてから寝るまで、食事中も授業中も登下校のバスの中でも、頭の中では常に次の展開を考えていた。
そして家に帰るや否や机に向かい、コマを少しずつ増やして物語を進めていく。
…UFOに飛び乗りいざ宇宙へ。
複雑な機械を器用に操る宇宙人。
大気圏を抜けると、静寂に包まれた暗闇を漂うたくさんの星が現れる。
さっきまで目の前にあった地球はあっという間に小さくなっていく。
学校の休み時間には、みんなが外で元気よく走り回る中、僕も元気よく絵を描いていた。
ワープによって太陽系を出た宇宙人と2人は、最初に降りる星でどんな生物たちと遭遇するのか。
紙一面がぎっしりと奇妙な生物で埋め尽くされていった。
時々父が、絵を描くためにと会社で余った大量の裏紙を持って帰ってきてくれるようになった。
それが何より楽しみで、引き出しの中に丁寧に裏紙を詰み重ねていく作業のことを‘‘宝の補充’’と呼んでいた。
ある日の休み時間、いつものように絵を描いていたら、友達のJくんとTくんが僕たちもストーリーの続きを考えたいと言ってきた。
Tくんもどうやら漫画好きのようで、僕が毎日にように描いていた絵が気になっていたらしい。
こうなると漫画の中にTくんも登場させなければいけない。
ところが物語は進んでいて、もうすでに宇宙人と僕とJくんは最初に降りた星を探検し、次の星へ向かおうとしているところだった。
今から地球に戻る理由が思いつかない。
そこで冒頭のコマに遡り、ストーリーを書き換えた。

最初から3人だったことにした。
3人でストーリーを考えるようになってから、1人では思いつかなかった設定や展開が溢れるように生まれ、物語が膨らんでいった。
地球と瓜二つの星を見つけ困惑したり、民族の争いに巻き込まれたり、一緒に旅をする宇宙人が何者かに捕まり、鉄格子の中に入れられるが体がタコなので簡単に脱出できたり。

その反面思ったように話が進まないこともある。
アイデアを出し合っていた日、Tくんと喧嘩になった。
方向性の違いというものをこの時初めて味わったかもしれない。
Tくんは「もう君たちとは一緒にできない」と言い放ち、お互いにしばらく口を聞かなくなった。
最悪な関係になってしまった。
が、漫画の中では今までと変わらず仲良く旅をしている。
そんな状況に耐えられなかった僕はストーリーをねじ曲げた。

怪物の口の中がブラックホールになっていて、Tくんは闇に飲み込まれていった。
つい最近久しぶりにTくんに会った。
仕方なく怪物に飲み込ませたことを話し謝ると、手を叩いて笑ってくれた。
もしまた漫画を描く機会があれば、どこかの星でブラックホールの出口が開き、Tくんが無事生還できるように物語を歪ませたい。