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ひとりカラオケボックス #10by.海渡まどか

2020.06.20

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#10  綿毛を吹いてさようなら

 

もうあれは終つたんだと夢のやうな花柄のシャツ着て俺が言ふ

−魚村晋太郎『花柄』

 

ちょうどこのSALON206号室に入居して、この連載の第一回を書いたのが、大学時代を過ごした京都から瀬戸内海の島に移り住んでくる直前のことだった。

そのことには第一回目の記事でも触れている。

 

あれから3年が流れた。

3は事あるごとに変化の節目の数として扱われる。

石の上にも3年だとか、まずは3年働いてみろとか、恋人との倦怠期だとか。その全てに同意する訳では無いけれども、この3年は劇的に目に見える変化でなくとも、確実に私自身も大きく変わった。

歳を取れば取るほど時間の流れるのが早くなるという。それは年齢のせいだとかいうよりも、1つのことに長く向き合う時間が増えていくからだと理解している。

 

大学生までは、小学校や中学校に上がったり、毎年クラスが変わったり、受験をしたり就職を考えたり、毎年のように何かしらの転換が訪れて外部からの変化がめまぐるしかった。ライフスタイルが大きく変わるからたくさんの時間を過ごしたような気持ちになる。変化が多かったような気がしている。

枠組みとしての学校という制度を出て、同じ場所で同じ仕事を続けて、外見や生活に大きな変化は無くなった。だけれども、3年という月日を振り返れば自分自身は大きく変化している。

 

恋しく思いながらも半ば逃げるような気持ちで出てきた京都のこと、自分と音楽のこと、自分と書くこと、自分と短歌とのこと、悩んでいたこと…

変化の中で少しずつ解決され、幾つかの転機がありながら、3年経った今、この「ひとりカラオケボックス」という連載について構想するときに考えていた、少し夢見がちでゆらゆらと一人の空間に漂うような場所から、自分はいつの間にか扉を開いて外に出ている、というようなことに気がついた。

この連載のタイトルのイメージは、上も下もないような、他者に向けた歌や他者の歌を通じた言葉によって、他人と一緒にいながら一人になるような、ある意味外と繋がりつつも外を拒絶するようなものだったと思う。そういう空間を求めていた。もう少しぐらぐら揺れていた私の精神はそんな空間の中で閉じ籠って考えたいと思っていた。

そんな空間は私にとって時に今でも大切なものであり続けながらも、今の自分の立っている場所はもう少し外の世界に出て内と外が緩やかに繋がっている。それを心地よく思っている。

こないだ過去の日記を開いて昔の自分の悩みを笑っていたら、「これを読んで未来の自分は笑っているかもしれないけどそんな大人にはなりたくない」なんて書いてあって居住まいを正させられたので、過去の自分はそれはそれで受け止めてやりたいと思う気持ちはあるけれども、とにかく彼女がうずくまっていたあの場所は、今の私が常に過ごす場所ではなくなった。

 

冒頭に挙げた歌は、魚村晋太郎の歌集『花柄』から。

折に触れて思い返す一首。

 

もうあれは終わった。だから、この「ひとりカラオケボックス」は今回で幕を閉じて、来月から新しい別の連載を書き始めたいと思います。

 

ひとまずはご愛読いただきありがとうございました。

次の連載でもどうぞよろしくお願いいたします。

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