TENANT

喫茶 つぐみの部屋 #13by.秋光 亜実

2020.08.07

TENANT

  • ART
  • BLOG
  • PHOTOGRAPH

SHARE:

 

 

眠れない夜ほど、窓から漏れる月明かりは眩しく思える。ベッドサイドには、間接照明のスイッチやテレビのリモコン、スマホの充電器に、買ったばかりのスピーカー、読みかけの雑誌、ふっくらとしたピンクのクッションがいくつか点在する。手の届く範囲に備えられたそれらは、1日の終わりにクタクタになって布団に滑り込む私の心を物理的に満たしてくれるささやかな幸せだ。

 

「僕らははじめから幸せだった」

 

私が撮りおさめたものを見て、そう囁いてくれた友人がいた。こんなふうに、私自身が自分の放つものについて他人に語るようなことは野暮いなあと思ったりしている。けれども、彼のくれたこの一言は、私がなにか生み出す度に、魔法の粉のように密かに撒いているメッセージであることに違いなく、一語一句まったくそのまま掬い取ってくれたことにおどろきと共にうれしさと、気に留めてくれた瞬間があったことにありがたさが溢れ出し、私の気持ちは充足感に満ちたのだ。伝わることはきっとある。疑いなく素直にそう思うことができた。

 

 

 

 

近ごろは、目を伏せたり耳を塞ぎたくなるような出来事があまりに多いし、この地球はどこからか定点観察され今も何者かにコントロールされたSFの世界なのではないか、私たちはただその世界に迷い込んでしまったのだろうか、そうやって想像上のことで済ませてしまいたくなる。

 

目の前に存在する当たり前のものが、単なる風景か、それがまさに幸せというものなのか、判断もつかぬほど歪んで見えるようになってしまった。

 

それでも日常は止めどなく続く。この渦の中で失うものもあれば、新しく始まることもある。今までになかった環境下で新たなアイデアをもって乗り越えてゆく人たちが側にいる。その勇気ある一歩のおかげで、私も求められる機会があるのだから、世界はまわりまわって皆のものなのだろう。

 

結局、こうして当たり前のことをまた噛み締めるというところに辿り着き、自分の成長は止まってしまい、堂々巡りなのではないかと不安になるときもたまにあるけれども、今は生きてるだけでオーケー!このことを胸に大切に、毎日を穏やかに守り抜こうと思う。

 

僕らははじめから幸せだったはず。

 

 

 

 

今年もまた8月がやって来た。8月のある日が父の命日となってからまる3年、4回目の夏だ。もし父がこんな状況下でこの世を生きていたら何と言うのだろう、と何度か考えた。おれには関係ねーとか口では言いながら、頭の中では理論的に事を整理して、陰では周囲に物凄く気を遣って、単純にやるべきことをやり、無駄なことはしないだろう。どうせそうだろう、きっとそうだ、そうであるといいな、と想像を巡らすことしかできない。いま私が考えていることやこれからどうしていきたいのか、父と語り合うことは当然ながら二度とできない。私の記憶に残っている父と、今の私が、まるで自問自答するように私の中で会話するしかない。

 

 

3年前から今日まで、特にこの数ヶ月間でより濃厚に、私の中に死生観というものが圧倒的な存在感を持って宿ったような気がする。こんなことを、人に話す必要はないかもしれないし、誰かに聞いてほしいし、誰かにも話してほしい。そういう距離感で、生きることと死ぬことをいつでも考えてしまう。答えを探しているのではない、考えながら生きている。

 

長いトンネルの中で出口を探しているような梅雨の時期がようやく明けて、青空が私たちを包んでくれる日々が帰ってきた。結局は、お日さまの光が私たちのもとに降り注ぐことで、だいたいのことはそのパワーに救われているのかもしれない。

 

難しい言葉ばかり並べてしまう夜と、晴天の下で洗濯物を干すだけで喜ぶ朝、日々はそんなことの繰り返し。

 

幸せか不幸せか、それは遠くにあるのか近くにあるのか、大きいのか小さいのか、少しずつ見出すことに精一杯で、迷ってばかりだ。

 

僕らははじめから幸せなのである。
これは、私が辿り着いたこたえのうちの、たった一つに過ぎない。

 

 


 

 

今月も読んでくださりありがとうございます。7月はうっかりすっ飛ばしてしまいました、すみません。
「喫茶 つぐみの部屋」は、もともとは私の部屋にやってきた書物や映像作品について紹介するページだけど、近頃はあらゆる作品に触れることで生まれた感受性や、組み立てられた理屈を総体的にまとめて記した日記を、皆さんに直で読ませているようなページになってきてしまった。恥ずかしまじり。でも、同じように、私が感じたり考えたりしてることを読んでくれることによって、また誰かの何かを考えるきっかけや、経験したこと・考えたことを、さらに誰かに書く・言う・伝えるきっかけになれば良いなって考えてる。(開きなおり)

そうすることで、きっと、自分が勇気づけられることもあると思う。
それでは、また来月。

2020.8.7

SALONロゴ

隣の畑にすごい発見が落ちてるかも。
SALONは「クロスカルチャーな人達への刺激」であり、
「出入り自由なコミュニティ」であることを目指します。

What's SALON ?
SALONイメージ画像
ページトップボタン