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2018.05.23

【ACTION】リレー小説
『夏の白昼夢』#2


挿絵:Takuro Enomoto

スキッパー・カラーのブラウスを着た女の声がよく響いている。おそらく同い年と思われる男2人に海に行きたいやら、最後の大学生活なんだし、と大きな声で話している。周りにはその音量で話す人間はおらず、ただただあそこのグループだけ会話がダダ漏れしている状態である。

私からしてみれば夏がどうのこうのなんて言っている時点で論外ということだ。テレビでもSNSでも友だちの間でも。夏っていうのはまずとても暑いし、それに伴ってのクーラーの異常な掛かり方も嫌い。後はセミの鳴き声、あいつらは短い期間でこの世にいなくなるからか、生に必死過ぎる。五月蝿い。あれはこの電車に乗り遅れたらオレの人生は終わりだ!とか思いながらもう入りもしない満員電車に無理矢理身体を押し込むバカな会社員とか、この電車で座れなきゃオレの足は溶ける!と言っているが如くドアが開いた瞬間、真っ先に座席に走って向かうあの醜いやつ(そういうやつは決まって自分勝手なやつだから女となんか付き合えない)みたいに生に必死なのだ。第一に海に行きたいとか言うことすら私にとってはマヌケだと思ってしまう。あの女はマヌケ、だと、思う。

私の故郷と言えば、左を見ればどこまでも広がる海、右をみればおびただしくそびえる山々。そんなクソ田舎で、十数年を過ごした。私は自然がキライだった。キライだったのか、むしろ飽きてしまったと言えばいいのかわからない。まず初めに虫は嫌いだし、海もあのたまに浮いている海藻を目の当たりにすると背中に針金がピンと入った状態になる。あぁ、後クラゲを見つけたときも。私にとっては夏そのものがやはり好きになれなかった。わざわざ窮屈な車に乗って、何時間も揺られて、海に行くなんてもってのほかなのだ。

そんなこんなで都会に出てきた。しかし都会はとても暑い。なんならあのクソ田舎の昼間の涼しさが羨ましくなるくらいに暑かった。どこかで暑さを電気で補うためにどこかが異常に暑くなっていたりした。人が多いのは本当に気が滅入る。どうしてこんなところに来てしまったんだろう、などと週末までに終わらせないといけない資料を作りながら、時折インスタグラムで血の気が引くほどのイタいカップル写真を見つめながら、考えていた。考えても出てくることは集中も出来ない資料作りと今週に近くのライブハウスでトーフビーツがライブをすることばかりが浮かんだのだった。ーめくるめくミラーボール乗って水星にでも旅に出ようかー。水星は暑いのだろうか。確か…水金地火木土天冥海…太陽から一番近いのか…溶けちゃうな…。そんな他愛のない、しょーもなくも、あぁこれを文字に起こせば本が書けるのかななんて考えながら、自分の席に散らかったパソコンや、資料をまとめて、カフェを出た。

しばらく町を歩いた。iPhoneが何回目かになる水星のイントロを流している。丸く、でも純粋な芯の通ったシンセサイザーが鳴り響く。都心から少し離れたここは、歩けばなんで育ててるかもわからない花が無造作に植木鉢に入れられて咲いていたり、いつかのお祭りを思い出すかのように赤提灯がゆらゆらと揺れている。私が都会に来て求めていたのはこういうものだった。室外機が静寂を止めない。朝にしっかりと締められたネクタイもゆるゆるに解かれ、ブラブラとしている。ある意味私にとっては夢みたいな心地だった。足取りは軽くなる。今日は帰りに、肉まんでも買って帰ろうか。そうそう、私の住んでたあのクソ田舎には1つだけコンビニエンスストアがあって、学校帰りの私たちにはそこしか寄るところがなかった。コンビニエンスストアには何でもある。寒い日には肉まんを買って、暑い日にはアイスを買う。隣にはクラスの男子がいた。気まずかった、女の子は女の子で固まるし、男は男で固まる。それって今でもそんなもんで、飲み会とかでもよくあることでもあったりする。ああいう場所で異性ていうものが意識されるなぁ。一生分かり合えないのはなんでだろう。同じ人間なのにぃ。歩くたびに、ヒールのコツッという音が耳ではなく、内側から骨を通じて聴こえる。流れる音楽のテンポに合わせて歩く、時には倍で刻んで、鳴らす。数十分歩いただけなのにこの町はみるみる景色が変わって行く。どこまでも変わらない田んぼだってそれはまあ恋しくなる時があるけれど、私にはこの変わりゆく街並みが好きだ。このやわらかい風と町が好きなのだ。それが都会に出てきた理由とも言える。私は今フィルムの中にいるのだ。色んなことが嫌いな、私のただ一つ好きなもの。
ビニール袋を片手でブラブラさせながら、幸せそうな顔をしている人がいる。かたや、スーツを着て俯き加減でカバンをブラブラさせる人もいる。ビニール袋には、カバンには、持ってる人の気持ちがわかるのだろうか。あぁこいつ今日は疲れてんだな、とか。今日はノってるな、とか。でも全てに生き物が宿っているとしたら、それはそれで世知辛い世の中になるんだなぁとも思う。人間という種族がただこの地球で王様で、全てを人間が決めて守ったり食べたりしてるのだから。人間の勝手だけでこれほどの文明ができるのだから、やっぱり人間ってすごいなと思ったり。
私は何を考えているかわからないと自分を一番知ってるであろう親からも言われるほどである。私はこれほどまでに考えているのに。こんなにも社会を考えたりしているのに。まぁいいか。またツイッターにわけわかんないって言われながらもツイートすりゃぁいいか。

iPhoneはトーフビーツのlonely nightsを流していた。ロンリーナァァアイツ。倍で刻む。足は急ぐ。と私はラインの通知音でふと我に返った。ここに来て出会った男の人からのメッセージ。ただ何となく連絡を取り合っていた。彼も田舎暮しから上京してきた人間だった。来週末にご飯に行かないかと誘われた。その連絡を見てから急に私は孤独を感じた。一度スリープ状態にする。幸せな孤独。いや、これは孤独なのか?何なんだろう。ロンリーナイツ。
私の夢はまだまだ続く。こんなおかしな町で暮らす、この日々の夢を。


Allancmo:
SALON TENANT 203の住人。ソロ・アーティストとして音楽を制作する傍ら、インディー・ロックバンド「ズカイ」のフロントマンとして活動。AllancmoとしてはAno(t)raksより2017年9月に配信音源”Concrete of Summer”をリリースした。批評的かつストレートな物言いは波紋を呼びやすいが類を見ないほど自由で野心的な存在。