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2018.03.01

【TENANT 203】改札前のカップルは今日も虚ろにハグをする #7

東京にいる友だちに電話した。女性。
僕が下北沢でライブをすることを知って、連絡してきた。

下北沢という名前とは裏腹になんの土臭さもなく、ただ漂うカレーの匂いと、幾重にも着られた服たちが次の飼い主を待って飾られる、そういう町であった。まず絶対数が多いのは、確かでたくさんの人間がたくさんの気持ちを持って生きている。彼らはその大きな力にも気付かずとも、家賃もクソ高いようなこの町を愛し戦い抜いている。
1つの目標に音楽で飯を食えるようになったら、必ず東京に住むというものが僕の中にはある。一生をあのクソ密度の濃い都市と共に終えるなんてことを考えてはいないが、どうしてもあそこには住まないといけない何かがあると僕は思う。一度家を追い出され、社会からも野放しにされた自分がどこかに永遠に帰属するなんて考えられない。

その友だちは高校の同級生で、その時初めて電話したほどであった。必ずしも連絡常に取るような仲でもなかったが、会えば良く話すくらいの人。彼女は疲弊して、それを割り切ったか、乗り切ったのかのような声をしていた。彼女の中には寂しさが見えていた。隠すというよりかはその感情を少なからず忘れている気がしたのだ。しかし何かしらの寂しさは消し去ることもできず、チラチラと顔を出していた。
東京というものはたくさんの人やたくさんのモノで溢れ、そのせいかたくさんの負も持ち合わせる。それは大阪でも同じような話だけれど、彼女にとったら、友だちも僅かしかいないようなところでその負と戦い続けるのであった。見ず知らずの人たち、毎日揉みくちゃになって乗る電車、そういうのを経験したら一体なぜ人間は呼吸して生きるのか??なんてふと色々と考えてしまう。人間は人間を滅ぼすために出来ているのかと。
もう慣れたと彼女は言っていた。毎日9時に帰宅してご飯を食べて一本のドラマを見て眠りにつく日々。日曜は眠るに徹する。明日、いやそこから始まる5日間をしっかりと生きるために。彼女は力を蓄える。明日もまた月曜が来る…

何がその人を救うことになるかというのはよく話される議題の1つである。このままあなたと一緒にいてもあなたのためにはならないと彼女を彼氏に別れを切り出す時に使う文句としてもあるし、自立をさせるためとしても使われる。かつて高度経済成長を支えた屈強な人たちも今や老いて平日の朝方に涼しい顔をしながら、日帰り旅行にでも行くような人たちなった。東京から帰った後、すぐに近くの回転寿司屋で晩ご飯を済ませたのだが、下北沢でのライブがまるで天国のように感じるくらい、この町は死んでいた。尽きない外国人客に永遠と困り続ける店員と少しの年寄り。この売り上げはきっとこの店の上の人間が食い物にして、店員は安い時給でクタクタになって帰って爆睡するだけの毎日を送る。なぜか悲しくなった。カウンターに座っていた僕の横に後から座ったのは年もだいぶ経ったお婆ちゃんであった。上から流れてきた味噌汁はギリギリ届く距離で、少しこぼしてしまいながらも、自分のテーブルに置く。時間は11時を過ぎようとしていた。そんな時間に1人で回転寿司屋に食べに行くのだから、彼女の事情をたくさん聞きたくなるくらいだ。でもきっとこの事情を聞いたところで僕には何もできないし、彼女はこれから何の起伏もなく人生を静かに終えていくのだろう。

高齢がたくさん増える中で未来の見えない僕には闇しか見えない。この先が。人は結局、人と人が支え合って出来るものではなく、1人が足2つを使ってしっかりと地につかせる生き物なのだろう。どんだけ疲れても、寂しくても、泣きそうで辛くてうなだれそうでも、足を使って立ち続けなきゃいけない。そのために足が二本あるし、腕が2本ある。

全ての友だちや、人々に感謝と尊敬を。