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2018.09.30

【TENANT 206】ひとりカラオケボックス #5

#5 台風に依るvanish

腰湯にハマっている。
身体の中の汚れを洗い出したい。
真っ黒な煤を、今朝の冷凍食品を、あの痙攣していた鼻の横側を、守られなかった約束の喪失感と、思うように身体を動かなくしている血中の漂流物を、気管に詰まったわだかまりを、流せ流せ流せ流すんだ。

この肌の外側にいけない動物なのだから、身体を澄んだ水で満たすんだ。
いくら知識があっても、いくらイメージが頭の中にあっても、事実身体を動かさないと、私たちは物質なのだから、何もない。
何もなかったことになってしまう。

季節にとって台風は転機なのだと思う。
抗えず発生して巻き込まれる。
他者が土足で立ち入ってくる。
暴雨暴風、でもそれが停滞した空気ごと連れ去ってくれる。

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか
ー河野裕子『森のやうに獣のやうに』

河野裕子の名歌。
予測不可能に、それは「私」の意思に気付くことすらなく到来して、想像も出来なかった未来に連れ去られてしまいたい、という願い。

身体を動かさなければ現実には何も変わりはしない。
なのに、唐突な他者・現象に無抵抗に変化させられることを夢見てしまう。

季節にとっての台風が、私にも向こうから来てくれたら世話がないのに。
気が付いた時にはガサッと攫ってくれている君を心の片隅に待ち続けながら、頼りない手足をあやふやさせて、泥でトンネルを作り続けています。